夜、電気を消して目を閉じても、頭だけが妙に冴えていることがある。体は休もうとしているのに、考えごとだけが止まらない。あのときの言い方、あの選択、もし違う道を選んでいたら——。とっくに終わったはずのことを、夜はなぜか何度も丁寧に並べ直してしまう。
「考えても仕方ない」と分かっている。でも、考えるのをやめようとするほど、思考は逆に勢いを増していく。
「何かを考えない」というのは、意外と難しい。ぐるぐる思考がつらいとき、「考えないようにしよう」とすると、頭はますますその話題に張り付いてしまう。
だから最近は、考えを消そうとするより、考えの居場所をずらす——そんな意識で過ごしている。たとえば音楽を小さく流したり、呼吸に意識を向けたり。その延長で気づいたのが、「手を使う」という方法だった。

不思議なもので、手が何もしていないときほど、思考は遠くまで暴走しやすい。逆に、指先が何かに触れていると、頭の中の言葉がふっと途切れることがある。
最近、夜の机に小さなフィジェットトイを置いている。カチッと軽い感触があって、動きは単純。考えなくても、指だけが勝手に動く。それだけのことなのに、気づくと「さっきまでの思考の渦」が少し遠のいている。
救われた、というほど大げさな話ではない。これで悩みが消えたわけでもないし、眠れない夜がゼロになったわけでもない。ただ、思考と自分のあいだに、ほんの小さな「間」ができる感覚があった。
その間があるだけで、「今は考えなくていいか」と一度手放せる。それだけで、夜は少しだけ静かになる。
こういうものは、本当に人それぞれだと思う。何も感じない人もいるだろうし、逆に気が散ってしまう人もいるかもしれない。だから「おすすめ」でも「効く」でもなく、「こういう選択肢もあった」という話。
もし夜の思考に少し疲れているなら、手を動かす何かをそばに置いてみるのも、ひとつの工夫かもしれない。








